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 フルートの奏法に関することは、奏者それぞれに納得のいく意見を持ち合わせていますが、更に良いと思われるアイディアや明らかに間違っていると思われる奏法を正し、上坂が考える最良のアプローチの仕方のごく一部を記していきたいと思います。

 ここに掲げる題材は、成功への一つの方法であるという理解と、ここで知り得た内容を試行錯誤を繰り返しながらも実践し、真に自分のものへと吸収することが望ましいと考えます。

  • Op.1:フルートを吹くということ
  • Op.2:基礎練習は何故必要か
  • Op.3:基礎練習その1−音づくり
  • Op.4:基礎練習その2−音階練習って?
  • Op.5:呼吸法とお腹の支え
  • Op.6:構え方とアンブシュア
  • Op.7:タンギング
  • Op.8:譜読みについて
  • Op.9:譜読みについて・その2:暗譜の必要性はあるのか



Op.1:フルートを吹くということ

 たいていの人は、フルートを吹いていて難しさを感じていることでしょう。もちろん私もです!高音のパッセージはなめらかに演奏できない、望む音色が出せない。。。では、なぜ難しいと感じるのでしょうか?

 物事には全て理由があります。難しいと感じるには必ず理由があり、その理由を解明することが、すなわち上達と言うことが出来ます。そして、その理由に特別な事など無いのです。何故なら、楽器演奏は人間が演奏するために考えられ発展してきたからです。つまり、人間なら誰にでも演奏できる能力が潜在的に備わっているのです。ただ、その能力を引き出すことが難しく感じられるだけです。難しいと感じることに対して、十分に注意深く観察すれば必ず理由がわかり、つまり、練習方法が見いだせます。

 必要なのはたくさんのテキストではありません。そのテキストを練習するときに何に注意しなければならないか、どういう目的を持たなければならないか、が重要なのです。考え感じることで、無味乾燥と思えた練習が素晴らしい音楽に変身することでしょう!

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Op.2:基礎練習は何故必要か

 誰だって少ない苦労で華麗に演奏できるようになりたいと望むものです。だから基礎練習が重要なのだ、と考えているでしょう。そう、確かにその通り!です。ロングトーンで音づくりをし、音階をさらう。しかし、時としてうんざりしてしまいます。でも、基礎練習をやったのだという達成感はあるでしょう。これで大丈夫だ、と。では、曲を吹いているときに、その基礎練習で培った技術や感性をどれほど思い起こせているでしょうか。美しい曲を吹いたとき、ああ、これは音づくりの練習で訓練したな、とか、難しいパッセージに直面したときに、これは音階練習でやったからこういう風に注意して、と、、、、、そう思いながら演奏できている人はたいしたものです!でも、ほとんどの場合、基礎練習と曲は別物と感じていることでしょう。無意識のうちに。

 基礎練習を行う前に、良い基礎練習のテキストは極めて音楽的に出来ているということを忘れてはなりません。なぜなら、音楽を分解していけば音階(半音階を含む)や分散和音に行き当たり、それを更に分解すればたった1つの音になってしまいます。もうお分かりでしょう、だからロングトーンや音階が最も一般的で最も重要な基礎練習のメニューになっているのです。ただし、それら基礎練習を音楽だと感じながら練習することがとても大切です。音楽を分かり易くしたもの、それが音階であり音づくりなどの基礎練習なのです。

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Op.3:基礎練習その1−音づくり

 上にも述べましたが、基礎練習を行うときは常に音楽的であるべきであり、いつも音楽を感じていなければなりません。何故なら、基礎練習で得た技術はそのまま音楽に使えなければ意味がないからです。基礎練習と音楽を切り離し、例え美しい音を獲得できたとしても、現場である音楽の演奏で活用できなければ徒労に終わってしまいます。苦労に見合った練習方法、これがメインテーマであり、最重要項目です。

 ここで、名著「ソノリテ」の意味と目的を考えてみましょう。言うまでもなくソノリテは美しい音の獲得を目的としています。モイーズが自身の経験上、こうやったら上手くいった、を著したものです。そもそもテキストというものは、それぞれの著者が「私はこれで上手くなった」を著しているに過ぎず、学習する人がそれぞれに内容を理解し、自分用に試行錯誤しなければ有用なテキストにはなりません。つまり、皆さん自身で自分に最も都合の良いテキストとなるよう編纂し直さなければならないのです。そのためには書かれている事の意味を探らなければなりません。

 ソノリテの最初に出てくる半音階の練習に話題を集約いたしましょう。
 モイーズは考えました。音階を高い方から低い方へ、またはその逆に素早く演奏してみると、最初と最後、つまり、高い方(低い方)と低い方(高い方)では音色が違う、ではどこでその音色の変化が起きたのか?ここ、といえる場所はない、隣同士少しずつ変化しているので両端を比較しないと分からない。。。。では、隣同士の音を全く同じ音色で吹けるよう訓練すれば音色もそろうし、奏法も身に付くはずだ。。。

 確かにその通りです。ただし、文字にはなっていない(これが一番重要)意味を読み取らなくてはなりません。それは、「高かろうが低かろうが大体似たような吹き方で音は出るものだ」です! これを読んで、そんなはずはない、そう思ったでしょうか。しかし考えてみてください。素早いパッセージや跳躍を、全く違う吹き方で吹くのならとても演奏不可能でしょう。ほんのちょっとしたコントロール、つまり、似たような吹き方だからこそ音を自由にコントロールできるのです。

 もう一つ、ソノリテには難問があります。
 音そのものに集約し単純化しすぎた結果、分かる人には分かる本、つまり難解になってしまったことです。そして、趣味性も少なくなってしまいました。ソノリテ冒頭の半音階の練習をしながら、「ああ、なんて素敵な音楽なんだろう」と感じられる人はいるでしょうか。最初に書いたとおり、基礎練習は音楽の部品のクオリティを向上させるためのものですから、基礎練習といえども音楽を感じ、曲を演奏しているときに基礎練習で得た成果を分かり易く反映させられることが望ましいのです。

 モイーズの理論に尊敬と賛同を感じた上で、より分かり易く楽しく、実際の演奏でイメージしやすいよう音づくりのテキストを考案しました。Practice-1:高音へ、Practice-2:高音への補填練習、Practice-3:低音へ、Practice-4,5:全音域のコントロール、という構成になっています。Practice-1の一部画像を掲載します。





このテキストは以下の点に注意し練習することが重要です。

・基準音が中音のEsになっていることについて

 フルートの音の中で最も難しいのが中音のEsと考えます。確かに高音域のFisやGisは難しい音ですが出せるようになった人にとって比較的立ち上がりよく発音することが出来ます。しかし、中音のEsはいつまで経っても立ち上がりの良い、また、豊かな音の獲得は困難です。この難しい音を美しく出すには、強く吹いたり口を締めただけでは得られないことでしょう。正しく脱力し、アンブシュアと歌口の距離を縮めることが出来て初めて反応の良い美しい音が得られます。この難しい音を克服できたなら、その奏法と理論は他の全ての音に適用できます。難しい音を基準にすることで他の音に移行する際の不要な力みも最低限に抑えられる事でしょう。

 まず始めに、十分良い音が出たと思えるまで何度も中音のEsを伸ばします。自分の最良の音が出るまで行います。そして、タンギング無しで二分音符を吹いてみます。音を切る方法は「息を吸う」です。そして、同様にタンギング無しでスタッカートを演奏します。タンギングに頼らない明晰な音の立ち上がりを目指します。

・音づくりといえども音楽である

 楽器の練習はその全てにおいて必ず音楽的に練習できなければなりません。楽曲の演奏に自然に活用できなければ意味がないからです。それぞれの練習は全てに調性と拍子が指定されています。今吹いている音が何調なのかを意識することは最低限の事柄です。そして、それぞれに表情を付けられるような、最低限のメロディになっています。何調で何拍子の曲で音を作っているのかを常に感じ、豊かな表情の中で最適な音を得られるよう練習します。

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Op.4:基礎練習その2−音階練習って?

 誰しもが音階練習は大切だと思っていることでしょう。しかし、本当に音階練習の意味と目的を正しく理解して練習している方は少ないように感じます。なんのために音階練習は必要なのですか?指を速く動かせるようにするため?音を覚えるため?全て不正解です。音階は、音づくりの最終形なのです!

 ご説明いたしましょう。
 何も持たないで指をぱらぱらと動かしてみてください。そう、ピアニストになったつもりで。きっとなんの支障もなくピアニストの真似が出来たでしょう?指は動くではありませんか。それも、きっとあなたが吹ける最高に速いパッセージよりも巧みに。これで明らかですね、そもそも人間には楽器演奏に必要な能力は備わっているのです。では何故思い通りに曲が吹けないのか?それにも理由があります。例えば、高音域の素早い動きは難しいものですが、それは音が自由にならないからであり、何の音が書いてあるのかちゃんと譜面が読めていないからです。難しく感じる理由はこの2つしかありません。たった2つです!

 音階は音楽の部品という側面と、音がどのようになっていても美しく思うように鳴らしなさい、という2つの側面があります。この2つは密接な関係なので頭の中が混乱してしまうわけです。音階は音の高低ですし、それにリズムという要素が加わり、そして、アーティキュレーションという要素も加わる。ごちゃごちゃです。さあ、頭の中を整理してください。そして、いかなる音の並びでも美しく響くよう努力するのです。動きは問題ありません。あのゴールウェイやパユと同じ早さで指は動くのです。ただ、それに音がついていかないだけです。今日からは音階練習の意味を正しく理解し練習すれば、短期間のうちにめざましい上達をしていることでしょう。どうです?楽しくなってきたでしょう?だって、上達が約束されたのですから。

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Op.5:呼吸法とお腹の支え

 皆さん、人はどうやって呼吸しているのでしょうか?吸い込めば息が入ってきて吐けば息はなくなる?それでは説明になっていません。身体の中のどこがどう動いて息が入り、どうすれば息が吐かれるのかちょっと真面目に考えてみましょう。呼吸法は切実ですからね!

 呼吸には、腹筋、横隔膜、肋骨のが重要な働きをします。
 まず、腹筋を緊張させお腹をふくらますと、腹筋につながっている横隔膜を引っ張ります。横隔膜は、みぞおちのあたりに通常は拳を2つ並べたようにある筋肉で、それ自体を人は意識して動かすことは出来ません。よく、横隔膜を上げる・下げる、と言う人がいますが全くの見当違いなのです。これは医学的に正しいことです。腹筋で横隔膜を引っ張ると、横隔膜につながっている肋骨を引っ張り、肺との間にいわば空洞が出来ます。

 肺は通常しぼんでいて、せいぜい500cc程度の容量しかありません。皆さんが今座って静にこの文章を読んでいるときの状態です。図鑑にある肺の形は、肺にめいっぱいの空気が入ったときの状態で、日常ではありません。しかし、フルートを吹くためには、肺の非日常が要求されるわけです。

 話しを戻しましょう。
 腹筋を緊張させ、横隔膜を引っ張り、それがまた肋骨を引っ張り空洞を作ります。出来上がった空洞は負圧の状態です。負圧とは、周りの気圧(普通は概ね1気圧でしょう)より気圧の低いことです。空洞を作りそこが負圧ならば、外からどっと空気が入り込んできます。これが呼吸の正体です。よく映画などで、2万フィートの上空を飛ぶ旅客機の窓が割れると荷物や人が吸い込まれますね?それと同じです。そして、腹筋の緊張を解けば空洞も無くなり、息は外へ吐かれます。フルート演奏では、このメカニズムを積極的に利用するのです。

 それでは、息の支え、お腹の支えとはどういうものなのでしょうか。
 ここで言う「支え」とは、安定した息の供給を目的としています。お腹を力ませただけでは支えになりません。また、支えられたからと言って、直接的に小さい音や大きい音、つまり、音をコントロールできるものではありません。お腹の支えがあれば小さい音が出せる、というちまたでよく聞く教えも、これだけの説明では間違いです。

 息のコントロールは、吸う、吐く、止める、の3つだけです。厳密に言えば、「止める」は吐く・吸うという動作の一部ですから息のコントロールは2つの動作に集約されます。息の動き、つまり、呼吸は話すということや歌と同じです。皆さんが話すとき、思い通りの大きい声や小さい声、話している最中に言葉を止めたり(=息を止める)することが出来るでしょう。フルートで使う息のコントロールも同じ事なのです。では、どうやって息を止めるのでしょうか。舌でふたをしている?気道をつぶして息をせき止めている?そんなことはないでしょう。息を止めると言うことは、吸うという動作と吐くという動作が釣り合って止まっている状態なのです。これがお腹の支え・息の支えの実態です。息を吐きながらも(音を出しながらも)常に腹筋に息を吸う方向の力が加わっているということです。息に手綱を付けてコントロールするかのように、一気に息が吐き出されないよう、また、思うとおりの強さの息になるよう、呼吸のメカニズムの一部である腹筋を使ってコントロールするわけです。

 身体を安静にし、静かに息を止めてみてください。お腹のあたりがわずかに緊張していることが感じられるでしょう。腹筋が緊張し、吸うという動作と吐くという動作をバランスさせているのです。

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Op.6:構え方とアンブシュア

 息の支えと関連して、喉の問題があります。喉を開きなさい、よく聞く教えであり、信じて疑わない人も多くいると思いますが、これも正しくありません。息(呼吸)というものは、生命を維持する以外に言葉という発音メカニズムを使って意思を伝達する重要な役目があります。息で声帯を震わせ声にするわけですが、そのためにはある程度息のスピードが要求されます。もし、本当に喉を脱力し、俗に言う「開く」という状態にしたら、身体から一切の力が抜けたようにしなければ出来ないはずです。へなへな、と脱力したときのように、ため息をついたときのように、です。その状態では声はもちろん、フルートに必要なスピードは得られません。また、医学的な考察では、フルートを吹いているときは喉は締まっていることが確認されています。喉が開いているな、感じる状態でも実際には喉は締まっています。喉が開いていると感じる状態は、実は首や肩の筋肉がリラックスしている、正しいお腹の緊張が得られている場合は胸周辺の力みが取れている、という感覚が喉の脱力と勘違いするのです。

 実は、息のスピードを上げるために唇(アンブシュア)で出来ることは限られています。極端に言えばたった1つ、日頃提唱している「アンブシュア(息の出口)と歌口のエッジ(壁、息の当たるところ)の距離を近づける」だけです。唇を(口笛のように、また、塞ぐように)締めても息のスピードは上がりますが、ごく小さい音を除いては、そのような息では豊かな音が得られません。つまり、実用的ではないのです。実際の演奏をしている状況を子細に観察すれば、息のスピードを上げている殆どは喉と口の中だけです。喉は上に書いたように自然に(人間の機能としての)息のスピードを上げるような動作があります。口の中は、アンブシュアで息を自由にコントロールできること、そして、豊かな音のために広くなっている必要があります。具体的には、「おー」と低い声で言うときのように、また、口笛を吹くときのように顎が下がり歯が開いている必要があります。息の断面積と音色は密接な関係があり、太い息の方が概ね豊かな音色が得られます。また、舌の付け根付近を上の奥歯に密着させることで、喉と口の中との2段構えで息を加速することが可能になります。低音で豊かで軟らかい音色であると同時に、輪郭のある音色を求めるには必須の技術になります。

 アンブシュアと壁の距離を近づけるために当て方が重要になります。下唇と顎の間の窪みに、下唇で歌口の手前側のエッジを感じるほど低い位置に当てることで距離は最短になります。その後、下唇を薄く使うコントロールをすることで、極めて唇をリラックスさせた状態で自由な音のコントロールが出来るようになります。

 当て方については「なんでも質問箱」に多くの投稿記事があります。検索しリストアップされた記事を参考にしてい下さい。

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Op.7:タンギング

 小学校の音楽の授業でリコーダーを習ったときがタンギングとの初めての出会いでしょう。とにかく音を出すときには「トゥー」といいなさい、そう習ったはずです。しかし、タンギングは本当に必要なのか、また、何故やらなければならないのかを考えてください。

 タンギングはご存じの通り音の立ち上がりをよくするために使われるテクニックです。はっきりした音を出したい、音の立ち上がりを良くしたい、そんなときタンギングに注目することでしょう。しかし、実際はどうでしょう、タンギングをいくらしっかり強く行っても音の立ち上がりは大して良くなりません。かえって音が汚くなってしまいます。音の輪郭も改善されません。当然のことなのです。タンギングで音を作っているわけではないのですから!

 タンギングはあくまでもおまけです。
 タンギング無しの状態で豊かな音色と反応の良い奏法が身に付いて、初めてタンギングの効用が期待できるのです。タンギング無しで音を作り、そこに軽くタンギングを添えることで、はっきりとした、輪郭のあり立ち上がりの良い発音が得られるのです。

 素早いタンギングやダブルなどは、肉体的な訓練(主に舌)を必要とします。ただし、素早い動きを可能にするアンブシュアや口の緊張のさせ方があります。そのためにも唇を必要以上に緊張させることは好ましくありません。唇自体は出来るだけだら〜っと脱力している(ような感覚)ことが好ましいのです。

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Op.8:譜読みについて

 いわゆる現代曲や前衛的と言われる曲の演奏は難しいものです。その理由は、音の並びに規則性を見いだせないからです。逆に言えば、譜面に規則性を見いだせれば譜読みは簡単になるのです。

 規則性とは調性のことです。書かれている譜面が何調で書かれているのか、その調は#や♭がいくつ付いている調なのかが理解できれば、劇的に譜面は読みやすくなりますし、先の予測も付きます。譜を読むということは、これらの基礎知識と反射(脳で考えることなく行動を起こすという身体の機能)から成り立っています。反射は、基礎訓練から得られる事ですから、調判断が出来るようになれば誰でも反射するようになります。

 調は全部で30しかありません。あなたが知っている英単語よりもかなり少ない数です。#と♭それぞれに7つまで(音はそれしか種類がありませんから)、それぞれに長調と短調がありますので全部で28の調、そして、#も♭も何も付いていないという調号(C-durとa-moll)の2つを加えて30です。これを丸暗記しましょう。#5つは?と聞かれたら「H-durとgis-moll」と即答し、Ges-durは?と聞かれたら「シミラレソドに♭が付く」と即答できるようにするのです。ここに理論は存在しません。単純に丸暗記です。誰にでも、楽器を演奏しない人にでも出来ることです。



 調が理解できれば、譜面を見たときに何の音が書かれているか即座に理解できますし、臨時記号が出てきたときにその妥当性を理解できますから、譜読みがかなり楽になります。そして、憧れの(?)初見にも強くなることが出来ます。初見に強いと言うことは、本番での集中力を高めることに寄与します。誰だって#がナチュラルに見えたりして焦ったことがあるでしょう?そんなときも調が分かっていれば冷静に対処することが出来ます。

 問題は短調です。短調は殆どの場合臨時記号が付きますが、それにも(当然のことながら)規則性があります。短調には3つの音階、すなわち、自然短音階、和声的短音階、旋律的短音階があります。この中で和声的と旋律的の2つに必ず臨時記号が付き、楽曲中で使われる短音階は殆どこの2つです。

 なぜ自然短音階があまり使われないかというと、短調の特徴が感じられないからです。音階は主音と導音(主音の1つ下の音、主音導く音)の音の幅(音程)が半音になっていないとその調の特徴が出ません。分かり易く何も調号が付いていない調(長調はC-dur、短調はa-moll)を例に挙げると、a-mollは「ラシドレミファソラ」という音階になります。そのままでは短調に聞こえにくいでしょう。C-durのラからラまで演奏した、と言われればその通りに聞こえてしまいます。これは自然短音階では「導音」が無いので調の特徴が出ていないからなのです。そのままでは導音が無く調の特徴が出ないので、臨時に導音を作ってあげなければなりません。主音を動かすわけにいきませんから、導音に当たる音(a-mollではソ)を臨時に半音上げます。a-mollの場合は何も調号がないのでソに#を付けます。C-durの曲を吹いているときに、gisがたくさん出てきたら間違いなくa-mollに転調しています。これが和声的短音階で、音階のつながりを良くするために導音の1つ下の音も臨時に半音上げた音階が旋律的短音階です。ただし、旋律的はそのままで下降時に長調に聞こえてしまうため、下降するときには臨時記号は無くなり元に戻ります。タッファネル&ゴーベールのEJ.4で使われている短音階は、旋律的短音階が主になっています。



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Op.9:譜読みについて・その2
  〜暗譜の必要性はあるのか〜


 暗譜とは、譜面を見ないで演奏すること、ではありません。

頭の中に置いた譜面を読みながら演奏する事を「暗譜」といいます。ですから、堂々と譜面を見ているのです。

暗譜と聞くと、

面倒くさい
暗譜するほど練習時間がありません

と訴える人が多いでしょう。でもそれは、練習方法が間違っている、と自ら認めているようなものなのです。

 皆さんは結婚式の祝辞のような大勢の人の前で話をしたことがありますか?無い人でも、学校の国語の授業の中で朗読をさせられた経験があるはずですね。正しく読めましたか?予習をきちんとしていたときは、ちゃんと読めたでしょうし、予習無しでその時初めて見る文章ならつっかえつっかえで怒られたでしょう!予習をする、つまりこれが暗譜の初歩なのです。何が書かれているか、どこに熟語がありどう読み、文節はどこにあるのか。それらが分かっているからこそ淀みなく読めるわけです。音楽でも、音符という文章を、何が書かれているか分からなければちゃんと吹けなくて当たり前です。そして、文字よりも---時として---複雑で、大抵の朗読よりも長く吹き続けなければなりません。曲が短いのなら行き当たりばったりでも経験でカバーすることが出来ますが、キャリアが長くなり大曲にチャレンジすればするほど、行き当たりばったりではお手上げになってしまいます。

また、暗譜が必要だという人の中にも、

そりゃそうだ、覚えるほど練習する必要がある。

と言う人もいるでしょう。これも間違っています。

たくさん吹いて覚えてしまった、というのは、この先ずっと死ぬまでその曲を吹き続けるのなら良いのでしょうが、曲が変われば練習で得られたはずの蓄積が無いということです。たくさん練習したのに、その経験が活かされないということです。暗譜というものはこのような受動的なものではなく、意識して行う能動的な作業です。

 さて、集中力を持って練習する、とはどういう事だとお考えでしょうか。根性で出来る限りの時間を練習する? まあ、それも良いことです。。気持ちを力ませて練習すること? そういう人はいないでしょう!

 集中して練習するということの実態は、楽譜に書かれていることを確実な再現性を持ち合わせて覚えること、ではありませんか?つまり、暗譜です。実際の練習では、全体像を見た上で(1回最期まで、つっかえつっかえでも良いから、通して吹いてみる)、1小節単位で絶対に間違えないように繰り返し練習する、です。絶対に間違えないように吹くためには覚えるしかありません。つまり、暗譜です。吹きながら、音名(ドレミ)を頭の中でつぶやきながら吹くのです。

 私が声をにして言いたいのは、暗譜のために特別な時間を捻出する必要はない、練習するときに覚えようという積極性を持って練習する、ということです。暗譜は時間がかかる、と言う主張が間違っていると書いたのは、このような理由からです。どうせ練習するのなら、注意事項をたった1つ増やし、有意義に練習して下さい、ということです。これが、「集中する」ということであり、練習は「何に注意するかが重要」という日頃の主張の内訳の1つです。

 私の30年近い指導者としての活動の中で、生徒達は4拍子の曲の3小節を、平均して5分で覚えています。これは、演奏時間5分程度の曲なら、余裕を見て1時間半で覚えられるということを意味します。ということは、1週間に2日しか練習できない人でも、1週間で5分の曲を暗譜できるということになります。このように真面目に有意義な練習をした人なら、例え暗譜が完全では無くても、本番で上がることが劇的に減るだけではなく、演奏のクオリティも比べ物にならないくらい向上するのです。

 よくある、高音域での素速いパッセージの困難を訴える人の中には、上級者と言われる人であっても、吹けない部分は譜面無しでは音名を淀みなく言えないだけでなく、譜面を見ながらでもつっかえつっかえでしか読めません。つまり、何が書かれているのか、その音符を正しく理解できていないわけです。これでは間違いは減らないわけです。「この音からこの音まで、○○調の音階ね」というだけでは譜面は読めていないのです。演奏の、瞬間瞬間に何の音を吹いているか意識できて、初めて譜面が読めていると言えます。どんなに早くてもです。これ以上速くなると意識できない、という限界が、その人の正しく音楽的に間違わず演奏できる限界になります。

 正しく譜面を読むこと=暗譜なのです。単純に(言い換えれば、あまり音楽的ではなく)覚えようという意識ではなく、正しく集中して譜面を読むという作業が、言い換えれば暗譜になっている、というわけなのです。

 皆さん、暗譜出来てしまうような集中した練習を心がけようではありませんか! 暗譜出来るような練習を積んだ人は、その努力は確実に蓄積し、上達が加速することを保証いたします。



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